
出っ歯は日本人の間で一般的な歯並びの問題の一つであり、多くの患者さんが矯正治療を検討するきっかけとなります。出っ歯とは具体的にどのような状態を指すのか、どこから出っ歯と呼ばれるのかについてご説明します。
出っ歯の定義とは?
出っ歯というのは一般的な呼び方で、専門的には上顎前突(じょうがくぜんとつ)と呼びます。出っ歯(上顎前突)と呼ばれる状態を歯科医師が診断する場合、どこから出っ歯なのでしょうか。
基本的な定義
出っ歯とは、上の前歯が下の前歯よりも大きく前に突き出している状態を指します。以下のポイントで詳しく説明します:
専門的な定義
- 正常な噛み合わせでは、上の前歯が下の前歯を約2–3mm覆う状態が理想的とされています。
- 上下の前歯の距離が4mm以上になると「出っ歯」と診断されることがあります。
分類
- 軽度:4–6mm程度の突出。
- 中度:6–9mm程度の突出。
- 重度:9mm以上の突出。
このように、出っ歯は上下の前歯の距離によって診断されることが多いです。
正常な歯の出方と出っ歯はどう違うのか?
歯並びが綺麗と言われる方でも、上の顎(上顎)の歯は、下の顎(下顎)の歯に比べて前に出ています。上の前歯の先端と下の前歯の先端の隙間を横から見た場合、約3mm位であれば出っ歯ではなく正常の範囲内です。ところが、その水平の隙間(オーバージェット)が5mmを超えると、歯科医院で出っ歯と診断されることが多いです。
出っ歯ではないけれど出っ歯のように見えてしまう場合もあります。
- 前歯2本のみが大きい
- 前歯2本が捻じれている(捻転歯)
どこから出っ歯と呼ばれるのか?
出っ歯と診断される基準は、専門家の間である程度共通していますが、個々の患者さんの感覚や悩みによっても異なることがあります。
1. 歯列の重なり具合
- 上の前歯が下の前歯を4mm以上覆う場合、出っ歯と見なされることが多いです。
- 矯正治療では、この距離を測定し、治療計画を立てます。
2. 横顔のバランス
- 横顔を横から見た際に、上の前歯が唇を押し出すように突出している場合、審美的な問題として出っ歯とされることがあります。
- 特に口元の突出感が強い場合は、審美的な改善が求められます。
3. 噛み合わせの機能性
- 噛み合わせが悪い状態(不正咬合)で、前歯で物を噛むのが難しい場合は、機能的な問題として出っ歯と診断されます。
これらの基準は診断の参考として使われ、患者さんの希望や生活への影響も考慮されます。
出っ歯の影響とリスク
出っ歯が未治療の場合、以下のような影響やリスクがあります。
審美面の問題
出っ歯は口元の印象に大きく影響し、笑顔や話す際の自信を損なう原因となります。
歯垢のたまりやすさ
前歯が突出していると、歯磨きが難しくなり、歯垢がたまりやすくなります。
歯や顎への負担
正常な噛み合わせが妨げられると、歯や顎に過剰な負担がかかり、顎関節症を引き起こす可能性があります。
発音への影響
上の前歯が前方に出ていると、特定の音を発音しにくくなる場合があります。
これらのリスクは、矯正治療によって改善される可能性が高いです。
出っ歯の主な原因
出っ歯の原因は多岐にわたりますが、以下に代表的な例を挙げます。
遺伝的要因
家族に出っ歯の方がいる場合、遺伝による影響が考えられます。
生活習慣
指しゃぶりや舌の癖(舌突出癖)が幼少期に続くと、出っ歯になる可能性が高くなります。
顎の成長バランスの乱れ
上顎が過度に成長した場合や、下顎の成長が抑制された場合に発生することがあります。
これらの原因は単独で起こる場合もあれば、複数が重なって発生する場合もあります。
歯並びの悪さによる影響
歯並びの悪さはお口元の見た目につながるため、精神的な健康面に影響を及ぼします。歯が出ているか、出ていないかという歯並びの方は、きちんと食べ物を上下の歯ですりつぶして噛めないという咀嚼機能以外にも問題があります。
- お口が閉じられず口腔内が乾燥し、虫歯や歯周病になりやすい
- 会話をする際に発音が悪い
- 顎の発達に影響が出る
「ほかの人と話しているうちに歯に視線が集まる気がする」とお口を隠して会話をしたり、なるべく人前を避けてしまうという行動を起こす程にコンプレックスとなるケースもあります。
矯正が必要となる悪い歯並び(不正咬合)ですが、受け口(反対咬合)、八重歯や歯のガタガタ(叢生)、お口が閉じられない(開咬)、上の前歯が覆いすぎる(過蓋咬合)、口元が前方に出ている(上下顎前突)、歯と歯の間に隙間がある(空隙歯列)等です。歯並びの悪さは、もともとの骨格の成長や遺伝、指しゃぶりや舌を前に出すなどの癖が歯を動かし発達してしまうことがあります。
出っ歯の原因別の治療方法
出っ歯であると診断された時の歯の状態は、主に以下のようなものが考えられます。
- 歯のみが突出している
- 骨格のみが突出している
- 歯と骨格の両方が突出している
- 下の顎が後退しているために出っ歯に見える
歯のみが突出している場合
歯のみが原因の出っ歯であるならば、歯列矯正をおすすめします。歯列矯正の治療法として、マルチブラケット矯正(ワイヤー矯正、裏側矯正)とマウスピース矯正があります。
前歯のみの不正咬合で噛み合わせに問題がない場合は部分矯正で治療を行える場合があります。部分矯正は主に前歯2本~8本程度を動かします。歯全体を動かすのは全体矯正と呼ばれ、部分矯正とは治療の期間や費用なども異なります。
出っ歯が中程度か重度の場合は、抜歯を行うワイヤー矯正をすすめられるケースが多いです。
●ワイヤー矯正・・・歯の表面にブラケットという突起をつけ、ブラケットの中にワイヤーを通し、歯を動かしてワイヤーを交換して歯の位置を動かす矯正方法
●マウスピース矯正・・・歯の表面にアタッチメントという突起をつけ、マウスピースを装着し矯正力をかけ、7日~10日毎に新しいマウスピースに交換して歯の位置を動かしていく矯正方法
骨格が原因の場合
上顎が前に出ているため、矯正装置で歯を動かして歯の向きを変えただけでは口元の突出感があまり変わらないという方もおられます。骨格がどの程度前に出ているかで、矯正装置での治療が可能か、またはセットバック手術と呼ばれる外科矯正の適用かが決まります。
矯正治療の場合は上下左右の小臼歯を抜歯する抜歯矯正が必要になります。外科矯正を行う場合は小臼歯を抜歯し、その部分の骨を切り取ります。矯正装置で治すか外科手術で治すかは、担当医と良く話し合って決めましょう。
外科矯正では、小臼歯と呼ばれる4番の歯とその部分の骨を取り除き、骨を水平に切り、骨と前歯6本を後方へ移動させるセットバック手術を行います。
下顎が後退して出っ歯に見える場合
下顎後退症と呼ばれる場合もあります。オトガイと呼ばれるアゴ先がない状態で、上の前歯が前に出ていない場合でも下顎が下がっているために出っ歯に見えてしまいます。
下顎が後退している方には、下顎骨を前方へ移動させ、オトガイ部分も更に移動させてアゴ先を作るという外科手術による治療を行います。
出っ歯になっている前歯を削り、セラミックの綺麗な形の歯を被せるという審美歯科治療があります。ただ、出っ歯の状態では前歯に角度があり、削ると痛みがでて神経治療が必要となる方もおられます。骨格が原因の方はセラミック治療で骨格を変えることができないため、重度の方はあまりおすすめできません。
まとめ
出っ歯は見た目や機能面でさまざまな影響を与えるため、早めの診断と治療が大切です。患者さんお一人おひとりの状態に合わせた適切な治療法を選ぶことで、出っ歯の改善が可能です。