前歯が1本だけ斜めになっていたり引っ込んでいる等の状態で、歯並びを1本だけ治したい場合は、部分矯正での治療が可能かもしれません。歯の矯正を1本だけ行う場合についてご説明します。
歯並びを1本だけ治したい
歯並び全体が悪いわけではなく、前歯の1本だけが気になるというケースがあります。
- 1本だけ歯が引っ込んでいる
- 1本だけ歯が出ている
- 1本だけ歯がねじれている
- 1本だけ歯の大きさが異なる
セラミック矯正について
歯の角度や形を時間をかけず矯正するという意味では、セラミック矯正という方法があります。歯の位置を動かさず、歯を削って綺麗なセラミックのクラウンを被せて見た目を改善する治療法で、部分矯正よりも治療期間が短いのが特徴です。
ただし、セラミックを被せる治療は矯正というよりも審美歯科の治療に該当し、削って歯の痛みが出た場合は別途治療を行う必要があります。また、歯の寿命を考えられる治療法かと聞かれるとおすすめできません。
部分矯正について
歯並びが1本だけ乱れているけれど、特に噛みあわせには問題がない場合は、部分矯正が可能です。部分矯正は主に前歯の2~8本程度の歯並びを整える治療で、歯全体を動かすよりも治療期間が短く、費用が安いのがメリットです。
マウスピース矯正
透明なマウスピースを装着し交換して歯を動かしていく矯正治療法で、見えにくい矯正として人気があります。歯を小型の3Dカメラでスキャンして歯列の状態を3Dデータとして保存し、それをもとにして治療計画を作成します。
食事と歯磨きの時にはマウスピースを外して行い、1日22時間以上の装着が推奨されます。
ワイヤー矯正
歯1本1本の表面にブラケットという小さな装置を接着し、ブラケットの中にワイヤーを通して歯を動かしていく矯正治療法です。ワイヤー矯正の装置は固定式で患者さん自身で外すことが出来ません。
従来のワイヤー矯正では銀色のワイヤーとブラケットを使用するため、装置が目立って嫌だとおっしゃる患者さんも多くおられましたが、現在は白いプラスチックやセラミックのブラケットが主流になっています。白いブラケットと白いワイヤーを使えばあまり目立たない状態で矯正治療を行えます。
裏側矯正
歯の裏側にブラケットとワイヤーを装着します。表側からは殆ど見えません。歯磨きが少し難しくなるのと、舌の動きが制限されるため慣れるまでの間は発音しにくくなる音があるのがデメリットです。
歯並びが一本だけ乱れる原因とは
歯並びが一本だけ乱れる原因は、顎が小さいために歯が一列に並ぶ為のスペースが足りないというケースが殆どです。
現代人は昔の人と比べて顎が小さいという特徴があり、これは加工がされているやわらかい食品を食べることが多く、上下の歯でしっかりと食べ物を噛む回数が減っているせいだといわれています。
力を入れて噛む回数が減ってしまうとあごは発達しにくくなり、小さなあごになる子供が多くなっています。上顎は10歳前後頃、下顎は18歳までで発達が止まります。子供の時期に硬いものも含めてしっかりと食べ物を噛む習慣をつけることで、ある程度顎の骨は成長します。
また、ご両親の顎が小さい場合は、遺伝により子供も顎が小さくなる傾向にあります。
自力で歯を一本だけ治す場合のリスクは?
稀に、自力で歯並びを治したいとおっしゃる方がおられます。確かに力をかければ歯は動きますが、歯列矯正は押せば動くという単純なものではありません。動画配信サイトなどを見て自力で歯並びを治すという行為は、大変リスクが大きいためやめておきましょう。
1. 矯正力が過度にかかり歯や歯茎が痛む
矯正歯科医は歯列矯正を専門的に学んでおり、カウンセリング後に精密検査や診断を行います。治療計画を作成し、矯正器具の装着時間を担当医が患者さんへ指示します。特別な装置と適正な矯正力があって初めて歯はきちんと動いていきます。
自己判断で歯に強い力をかければ歯が動く可能性はありますが、過度な力で動かすと、歯の神経(歯髄)が死んでしまったり、歯茎を傷める可能性があります。
2. スペースを作らずに無理やり矯正治療を行うと歯列が乱れる
歯科医院で行う矯正治療は、必ず歯を正しく並べるためのスペースを作ってから歯を動かします。大人の場合は小臼歯(前から4案番目の歯)の抜歯や、IPR(エナメル質を少し削る)を行ってから歯を動かします。
歯を動かすスペースが無いのに歯を動かそうとすれば、歯並びはどんどん悪くなってしまいます。歯が複雑に重なり合ってしまうと歯の清掃が難しく、虫歯や歯周病のリスクが高まり、歯がダメージを受けやすくなって健康な歯を失ってしまうことに繋がります。
歯並びを一本だけ治したいに関するQ&A
一本だけの歯並びを治したい場合、特に噛み合わせに問題がない場合は部分矯正が適切です。これにはマルチブラケット矯正(ワイヤー矯正)やマウスピース矯正などがあります。これらは特定の歯だけに焦点を当てて治療を行う方法で、歯の移動に必要な矯正力を適切に加えることができます。
セラミック矯正は、歯の位置を動かさずに歯を削って綺麗なセラミックの人工歯をかぶせて見た目を改善する治療法です。これは審美歯科の治療に該当し、矯正治療よりも治療期間が短いですが、歯を削るため、歯の寿命が短くなるリスクや、削った歯が痛むリスクがあります。
歯並びが一本だけ乱れる原因は、主に顎のスペースが足りないことによります。現代の食生活の変化や遺伝により、顎が十分に発達しないことで、永久歯が正しく並ばずに乱れることが多いです。特に顎が成長している期間に適切な発達がなされないと、このような問題が起こりやすくなります。
まとめ
歯並びを一本だけ治したいという場合は、歯科医院で矯正治療を行うべきです。安全性においても、症例経験の豊富な歯科医師の治療計画のもとで改善するのがベストです。
歯並びを一本だけ治したい場合の矯正治療に関する情報は、以下の研究から得られます。
1. Barone et al. (2018) の研究では、コンピュータ支援技術を用いて患者特有の矯正装置を設計・製造する方法が提案されています。この方法では、患者の歯の解剖学的な形状やアシンメトリックな条件に基づいて、カスタマイズされた装置をデジタル化し作成します。このアプローチは、特定の歯の歯列不整合を解決するためのカスタマイズされた解決策を提供する可能性があります。【Barone, Neri, Paoli, & Razionale, 2018】
2. Wirtz et al. (2021) の研究では、五つの写真から歯の3D再構築を行う自動モデルベースのアプローチが提案されています。この技術は、歯並びの不整合に対する矯正治療の決定やモニタリングプロセスを支援するために使用されます。この方法は、特定の歯の歯列不整合の正確な評価を提供し、治療計画の作成に役立ちます。【Wirtz, Jung, Noll, Wang, & Wesarg, 2021】
これらの研究に基づくと、一本の歯の歯並びを治すためには、患者特有の条件に合わせたカスタマイズされた矯正装置や、正確な3D再構築技術を利用した治療計画が有効です。これにより、一本だけの歯並びの問題に特化した効果的な治療が可能となります。