矯正で人中(じんちゅう)が伸びたり縮むという噂を聞くと、不安になる方もおられるでしょう。矯正は歯並びを改善する治療であり、皮膚の人中の長さを変えません。矯正器具の装着や歯の動きによって人中を長く感じる可能性があるだけです。詳しくご紹介いたします。
矯正で人中の長さが変わる?
歯列矯正で人中の長さは変化しません。矯正治療後に人中が「長くなった」、「短くなった」と思われる場合は、矯正治療によってフェイスラインが変わり、口元の印象が変わったことが原因と考えられます。
矯正治療中~治療後に起こるフェイスラインの変化の原因
- 矯正器具を装着してお口元が前に出た印象になることがある
- 矯正治療中は固い食べ物を避けるため、お口周りの筋肉が発達しない
- 歯を大きく動かす全顎矯正の場合、口元や唇の印象に変化が起こりやすい
出っ歯(上顎前突)、口ゴボ(上下顎前突)、受け口(下顎前突)などの歯並びにトラブルがある状態を不正咬合と呼びます。歯並びを正しくし噛み合わせを良くする治療が矯正で、自費治療になります。
人中はそんなに大事な部分?
人中は多くの哺乳類にある鼻から上唇へと伸びる垂直の溝です。人中の長さや深さはお顔と同じく個人差があります。美容外科で人中を短くする施術メニューがあるように、人中は顔の印象に影響を及ぼします。
一般的に人中が短い場合は口元も含めて若く見えやすく、人中が長く深いと老けた顔に見られることがあります。しかし、最適な人中の長さは、お顔の全体のバランスによって決定されるべきで、どなたにとっても最適な長さというものはありません。
矯正すると顔の印象が変わる?
出っ歯、受け口、口ゴボなど口元に突出感がある大人の方の歯科矯正は、抜歯の処置をしスペースを確保して行います。歯を抜く処置に抵抗がある方はおられますが、きちんと歯を並べるスペースを確保することはとても大切です。
また、歯並びと噛み合わせを改善することで、特定の歯にかかる負担を減らし、力が偏ることなくまんべんなく噛むことができます。歯磨きによる清掃も簡単に行えるようになるため、虫歯や歯周病から天然歯を守り、歯を長く保つことができ、お口の健康へとつながります。
人中が影響を受けやすいお口の部分
人中は下記のものに影響を受けやすいです。
- 歯並び
- 舌のポジション
歯並びと人中の関連性
上顎や下顎が不正咬合により前へ突出していると唇が閉まりにくい状態です。口元の出っ張った状態は人中が伸びたように見えてしまいます。
舌のポジションと人中の関連性
本来、上の前歯の裏に舌のポジションがあるべきですが、口呼吸や不正咬合により下の前歯の裏に舌があると、人中が伸びた印象を与えます。歯列矯正により口元がEラインに治まるように引っ込むと、フェイスラインが整いより良い印象を受けます。
歯列矯正中に柔らかい物を食べている生活が続くと、表情筋などの筋肉の力が弱まる可能性があります。そのままにしておくと頬のたるみやほうれい線につながるため、お顔の筋肉を発達させるようなお口周りを動かすトレーニングをおすすめします。
矯正で人中の長さが変わるに関するQ&A
矯正治療によって人中の長さが実際に変わることはありません。矯正は歯並びを改善する治療であり、皮膚の人中の長さ自体を変えるものではなく、矯正器具の装着や歯の動きによって人中を長く感じる可能性はあるものの、実際の長さが変わるわけではありません。しかし、例えば出っ歯の矯正治療を行って上の前歯の出っ張りが減った結果、人中の長さが変わったように見える可能性はあります。
人中の長さや深さは顔の印象に大きく影響を与えます。人中が短いと口元も含めて若々しく見えやすく、逆に長く深い人中は老けた印象を与えることがあります。これは個人差があるため、一概には言えませんが、一般的には人中は顔の重要な部分とされています。
矯正治療によって顔の印象が変わることがあります。特に出っ歯や受け口など口元に突出感がある場合、矯正治療で歯を適切な位置に動かすことで、口元や唇の印象が変化し、全体的な顔のバランスが改善される可能性があります。結果として、フェイスラインが整い、より良い印象を与えることが期待できます。
まとめ
ただ歯を綺麗に並べる治療が歯列矯正というわけではありません。矯正治療をご検討の際は、歯の健康を保つために上下の噛み合わせも総合的に診断してくれるクリニックを選びましょう。歯列矯正で人中の長さや深さは変わりませんが、矯正治療後に変化したフェイスラインが人中を目立ちにくくする可能性はあります。
歯列矯正が人中(philtrum)に及ぼす影響に関する研究は以下の2つが参考になります。
1. オルソファンシャルマイオロジーによる上顎間歯距離への影響
この研究では、非成長期の患者において舌を上顎に置く運動を含む筋機能療法が上顎間歯距離の変化とどのような関連があるかを調査しました。治療中には人中の長さ、上顎間歯距離、オーバージェットが測定され、人中が平均5.4mm伸びるという結果が得られました。これは筋トレーニングが非成長期の被験者においても歯の位置を変える可能性があることを示唆しています。【Moschik et al., 2015】
2. 矯正治療が顔の軟組織に及ぼす三次元的影響の予備的研究
抜歯および非抜歯矯正治療が顔の軟組織に及ぼす三次元的な影響を検討したこの研究では、治療中に上唇のヴェルミリオンが参照平面に対して同様の程度で前方へ突出し、下唇のヴェルミリオンと人中は治療期間中にどちらのグループにおいても変化がないことが観察されました。【Ismail & Moss, 2002】
これらの研究結果から、歯列矯正治療が人中に及ぼす影響は、治療の種類や個々の症例によって異なる可能性があることが示唆されます。矯正治療が人中の外観に影響を与えることはありますが、これは必ずしも全てのケースで顕著であるとは限りません。