矯正している最中に食いしばりを行うと、治療計画に影響を及ぼし、矯正の期間も延長する可能性があります。今日は食いしばりの原因や改善方法、矯正治療について詳しくご紹介いたします。
食いしばりの原因って何
食いしばりの原因は、疲れやストレスがある、噛み合わせの悪さ、詰め物が合っていない、嗜好品を多く摂取するなどが挙げられます。食いしばりは知覚過敏や歯の欠け・割れるが起きるだけではなく、片頭痛や肩こりにつながります。食いしばりの原因についてそれぞれご説明します。
疲れやストレスがフルに溜まっているため
肉体的な疲れやストレスが溜まっている状態は、心身ともに疲弊し、常に緊張状態にしています。それは口腔内に限っても例外ではなく、緊張状態では無意識に奥歯を噛みしめていることが多いです。噛みしめる強い力が日常的にかかると歯は摩耗してご自身の天然歯を保てなくなり、義歯治療を受けなければならないケースが多いです。
噛み合わせが悪いため
歯並びが悪い状態は、歯のバランスが前後や左右で乱れています。一部の歯は噛むことができるが他の部分で噛めないという噛み合わせならば、無意識下で歯のバランスを整えようとする力が働きます。食いしばりで歯がさらに乱れることも予想され、また歯を食いしばってしまうという悪循環に陥ってしまいます。
詰め物や被せ物が歯並びに合っていないため
虫歯になると感染した部分を削って、詰め物や被せ物をする処置を行います。被せ物や詰め物のサイズが合っていない、もしくは歯並びとの高さが合っていない場合、しっかり噛み合わせようとする意識が働きますので、食いしばりを起こすことがあります。
嗜好品を多く摂取するため
コーヒーや紅茶、煙草を吸うなどの嗜好品を多く摂取するのは控えましょう。明るい時間帯にたしなむ程度ならば問題ありません。ただ、就寝前に緑茶を飲んでしまうと、カフェインにより自律神経を乱す原因になります。自律神経の乱れは、身体を緊張状態にさせますので、食いしばりを行いがちになります。
矯正に悪影響を与える癖
食いしばりが矯正への悪影響については、
- 歯の動きを妨害する
- 痛みが出やすい
- 矯正器具の選択肢が狭まる
これらが考えられます。
歯の動きを妨害する
前後左右に歯を動かして整える歯列矯正に対して、食いしばりは上下から強い力がかかります。矯正が水平方向に、食いしばりは垂直方向に力がかかるため、矯正治療のブレーキになります。歯を円滑に動かそうとしても、食いしばりにより動かないという可能性は十分にあり得ます。食いしばり以外にも矯正にブレーキをかけそうな癖は、下記のようなものです。
舌癖、歯ぎしり、指しゃぶり、頬杖、爪を噛む、唇を噛む、片側だけで食べ物を噛む
うつぶせに寝る、横向きに寝る、姿勢が悪い
痛みが出やすい
矯正治療というのは、歯を歯根から動かすために矯正器具を装着した歯に矯正力がかかります。装置を付けるのに違和感を覚え、最初の頃は痛みを感じやすいです。それに加えて食いしばりを行ってしまうと、矯正への痛みが増すことになります。
矯正器具の選択肢が狭まる
食いしばりは上下の歯を噛みしめてしまうため、歯並びに被せて装着するマウスピースは不向きです。食いしばりの力に耐えられず破損してしまうリスクがあるからです。そのため、食いしばりの癖がある方は、マルチブラケット矯正(ワイヤー矯正)となります。
食いしばりを改善して矯正治療するためには
食いしばりがあるけれど、患者さんのタイミングで矯正治療を開始したいというのもよくわかります。程度によりますが食いしばりを改善しつつ、矯正治療が可能と担当医が診断すれば、行うのがベストでしょう。特に、下記の4点は大切なポイントです。
- 噛み合わせの乱れによる食いしばりが起きている場合は全顎矯正で治療する
- MFT(口腔筋機能療法)で頬や舌のトレーニングも併せて行う
- 寝る時にはナイトガードを装着する
- 出来るだけ食いしばりをしないように注意する
MFTとは
MFTは遺伝ではなく日常生活を送るうえで癖づいてしまった舌や頬などの口周りをトレーニングして口腔機能の改善を目指します。MFTについて詳しく知りたい方は下記をご参照ください。
食いしばりの歯列への影響に関するQ&A
食いしばりは、歯の動きを妨害し、痛みを引き起こしやすく、矯正器具の選択肢を狭めることがあります。特に、食いしばりによる上下の圧力は、矯正治療の進行を遅らせる要因となり得ます。
食いしばりを改善するためには、全顎矯正で噛み合わせを治療する、口腔筋機能療法(MFT)で舌や頬のトレーニングを行う、就寝時にナイトガードを使用する、意識的に食いしばりを避けるなどの方法があります。
食いしばりによる矯正治療への影響を最小限に抑えるには、正しい噛み合わせを実現する全顎矯正治療を行う、MFTを利用して口腔筋機能を改善する、ナイトガードを使用して就寝中の食いしばりを防ぐ、日常生活で食いしばりを意識的に避けるなどの対策が有効です。
まとめ
矯正治療において食いしばりなど日常的な癖がある患者さんは特に注意が必要です。ご自身に自覚がある場合は、カウンセリングでドクターやスタッフに相談してください。
矯正治療における食いしばり(ブラキシズム)の影響について、以下の論文から得られた情報を提供します。
1. Machado et al. (2020) の研究では、矯正治療を受けている患者における覚醒時ブラキシズムの存在が、不安、うつ症状、口腔健康関連の生活の質(OHRQoL)に関連していることが示されています。この研究は、覚醒時ブラキシズムを自己報告する患者は、TMJ/咀嚼筋の痛みを発症しないものの、矯正治療中に高い不安やうつ症状、低いOHRQoLを経験することがあることを示唆しています。【Machado, Costa, Quevedo, Stuginski-Barbosa, Valle, Bonjardim, Garib, & Conti, 2020】
2. Škaričić et al. (2020) の研究は、ブラキシズムの患者における咬合スプリント治療の影響を調査しています。この研究は、咬合スプリント治療がブラキシズムの患者の下顎の境界運動および顎関節の位置に影響を与え、運動範囲を増加させることを示しています。ブラキシズム患者における健康な被験者と比較して顎関節の位置の変化が大きいことが示されています。【Škaričić, Čimić, Kraljević-Šimunković, Vuletić, & Dulčić, 2020】
これらの研究に基づいて、食いしばり(ブラキシズム)が矯正治療に影響を与える可能性があります。特に、不安やうつ症状を持つ患者においては、治療中の生活の質に影響を及ぼす可能性があると考えられます。また、咬合スプリントの使用は、下顎の運動範囲に影響を与えることが示されています。これらの点を考慮に入れ、矯正治療計画を立てることが重要です。